スプーンの春便り|Spoon’s Spring Tidings
温かなシチューからいつも逃げる臆病者の僕
冬のあくびを結んだりほどいたり
しおり代わりに書物にもぐり込めば
鏡文字に隠された謎解きに夢中
冷たい月面(バニラアイス)に
ひとすくいのかわいいクレーター
ホイップクリームまとってシンクで踊り
柱時計の下に隠れてチクタク夢を見る
ピアノを弾く指に生まれ変わり
浅瀬の稚魚になって泳ぎ
配管をねずみのように駆け上がる
カトラリーセット、のけ者の僕
忍び込んだボトルシップで旅に出る
渡り鳥のくちばしは揺りかご、虹の中
ジオラマに点滅する、懐かしい友人たちのウインク
こわいものなんてなくなって
落下する見知らぬ丘、雪の中
痩せっぽっちなデコルテ、春に濡れて
まるで、少し気の早いモーニングコール
*「元町アートブックフェア」(2024年2月9~17日、神戸)に出品した絵本詩集「Spoon’s Spring Tidings」より。