小さな石ころに裸足をかじられ尻餅をつく ひびひとつないアスファルトの熱に濡れて 横たわれば生温いプールに浮かぶ西瓜になる 宙ぶらりんになった手は宙を引っ掻いて 知らず知らずに星座たちを組み替えていく 大きな自転に抗って重い身体を起こせば 遠くでもうひとつの身体も起き上がる ふたつの電灯に照らされた 焼けた背中と青白い胸 影が重なれば、やっと僕に戻る 夏が呑気に寝返りを打つ夢の中で 脱皮したてのように透けている 脆くて儚い、確かな身体 “君はいつも終わり際にやってくる” “まるでそれがこれから始まるかのように”
いつも手ぶらで現れる君は言う ぼやけてるぐらいがちょうどいいです 胸ポケットを少し膨らませている眼鏡は 完全に気が抜けていて挨拶もない いつも持ち歩いている僕の折り畳み傘は 突然の土砂降りにたたき起こされて 不機嫌にふたりの肩をはみ出させる いつも手ぶらで去る君は言う 明日は晴れたらいいですね 改札前の笹飾りが空調に揺れている 去年もこの時期に会ってたね いつも奇跡には一日早く 手ぶらでふたりは再会する それが唯一の方法だと言わんばかりに 次の、またその次の七夕へ 持ち越される短冊は真っ白なまま
夜が深く最後の息を吐き、朝が寝返りを打つ灰色の時間 見慣れたこの肌も髪もきっと瞳もまだ色がない 手のひらはまだ運命も刻まれていないのっぺらぼう 手当たり次第でしか進めない神経衰弱って楽しいね 丸くなった新聞を咥え込み独りごちる、向かいの家の郵便受け 遠慮がちに床に寝そべった靴下たちと耳をそばだてる ベランダの窓を開けても続く薄い灰色の朝は11月 鉢植えの金木犀の香りが、今日最初の色彩になる まだ出会っていない友達のまつげに溶ける スクロールした遠い街の初雪、マフラーどこしまったっけ 温まった手が無防備に誰かの手をまた握れるように
多分、だれも聞き取れない言葉だから 唇をたわませ、微笑みのかたちにします 口が寝ている隙に、どさくさと自惚れる 往生際悪く、もうしばらくここにいていいですか 多分、少しも同意されない言葉だから なめらかなテンポで、空模様を予測します 身体を穴にして、背中合わせで立つ そっけなく、一緒に風のにおいを嗅いでいたいです 多分、口に出すと悲しくなる言葉だから 青信号を待たず、歩道橋を登ります どこもかしこも熱すぎて、喉が干上がる バニラシェイクでも飲みながら、ちょっと遠まわりして帰ります
two sundials|ふたつの日時計(Video)Watch now (2 min) |
一粒の海(Audio/Text)呼ばれた気がして振り向けば 小さな子のめちゃくちゃな笛の音に パラパラめくれる文庫本と 御守りがわりの腕時計が 止まったまま2度引っ越して 書きかけの葉書を投函したら 「おはよう」明け方の電話で 沈黙が切り開いた空へ プラカードを握りしめ横たわれば 一粒の蒸発する汗 にわか雨に濡れる肩に…
4月のマーチ(Audio)Listen now |  The March in April on audio.
冷たすぎるペットボトル 窓辺に置いてベッドに飛び込む 外の歓声が入射して 天井はぼんやりとした光の水たまり 眼鏡も靴も靴下も放り投げれば 柔らかすぎる枕は火照った頬を 思う存分沈めさせてくれる 遠のいていく重低音 川石を飛び渡る骨ばった濡れた背中に 必死にしがみつく…
すぐほどける君の靴ひも結ぶ背中に不時着したさくらは あと10分あるね 次のバス停まで歩くぼくらは かけ違えたボタンのせい? 帆のようにふくらむストライプのシャツは 斜めの夕空がずり落ちて 突風に散らばる仲間たちは すぐに溶けていく いつかの明け方の電話のくぐもった声は 追い越していくバス…
チャイナタウンのスーパーマーケットの地下 半分埋まったミラーボールが鎮座する ここはトリプルハピネス 閉店時間が開店時間 $10 for Admission, free snacks スーパーマーケットのダブルハピネスの地下 あやふやなビニールカーテンが乱反射する ここはトリプルハピネス…
土間の米や灯油に安心したら すっかり降参して 白い世界に閉じ込められる インクは斜めに並ぶ背中のほくろ 明朝のまぶしさに瞬きしても ポストもしばらくは埋もれたまま 手探りの指先が言葉を散らばし あぶり出された傷が背中を焦がす どこかで 音もなく落ちる屋根雪 テーブルの端に積もる紙片たちも…
カタカナの方が読みやすいよね? 家族のような3人が絵馬に書く 遠くに暮らす友人の名前と 1つの願い事 煤けたミカンが転がり はらはらと崩れ去って 窮屈なスワンボートはジグザグ泳ぎ 空を縫い合わせる Hola, no te preocupes! こんなに近くで祈ってる かみ砕いたフルーツ飴の甘酸っぱさが…
後部座席の子が驚いたように宙を見上げ つられて仰ぐからっぽの空に、点滅する雪 かさついた指先の こわばった首筋の 明日に閉じたままのまぶたの 誰にも気づかれない、小さな蒸発 慌てて手袋を外しても間に合わなくて 代わりに送る、寝癖とくもったメガネのあけましておめでとう 真っ青な空を背負う君の凍えた頬に…
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森栄喜による詩を週に1度お届けします。EMWP sends you a poem by Eiki Mori every week.

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