西瓜
小さな石ころに裸足をかじられ尻餅をつく
ひびひとつないアスファルトの熱に濡れて
横たわれば生温いプールに浮かぶ西瓜になる
宙ぶらりんになった手は宙を引っ掻いて
知らず知らずに星座たちを組み替えていく
大きな自転に抗って重い身体を起こせば
遠くでもうひとつの身体も起き上がる
ふたつの電灯に照らされた
焼けた背中と青白い胸
影が重なれば、やっと僕に戻る
夏が呑気に寝返りを打つ夢の中で
脱皮したてのように透けている
脆くて儚い、確かな身体
“君はいつも終わり際にやってくる”
“まるでそれがこれから始まるかのように”
“もう間に合わないのに”
“もう間に合わないのに”
“もう間に合わないのに”
波打った文庫本はカラカラとめくれて
せっかちに台詞を飛ばす、反復する
置き去りにされていたトートバッグも
めいっぱいに膨らんでは急きたてる
沈黙の硝子が敷きつめられた平らな海で
果肉を熱くたぎらせた西瓜が
ゆっくり転がりはじめる